「ラ・ラ・ランド」を観に行きたいといったら却下され、、代わりに、と相方氏に誘われたのが「ホームレス ニューヨークと寝た男」。
ドキュメンタリー作品としての出来は、正直今ひとつ。ただ「マーク・レイ」というホームレス男性の日常から「人生とは何か」について考えさせられる、いい作品だった。
この映画の感想は2つに分かれる。それはマーク・レイの生き方を嫌悪する人とマーク・レイの生き方に惹かれる人の違いといってもいい。
某所で見かけた「家がないという緊急事態なのに、何故タバコを吸ったりお酒を飲んだりしているのか」という感想が象徴的で、世界の半分くらいの人にとって、このマーク・レイという男は「クソみたいな人生」の持ち主だ。
以前友人に部屋を借りた時に無断で作った建物の鍵で、そのアパートの屋上にこっそり住む。
道行く美女に「俺はチェルシー(NYの高級住宅街)に暮らしているカメラマンだ」と虚勢をはるけれど、仕事の大半はその言葉を鵜呑みにした女性のスナップを、ファッション誌の編集部に売り込む程度でしかない。そしてオーディションもないような端役でのロケを「撮影」と呼び、職業のひとつが「俳優」であると公言する。
10代の若者のすることならまだいい。ただ彼は50を超えている。ホームレスで定職もなく、夢ばっかり追ってる。なんて駄目なやつなんだ、こんな人生は嫌だ、というのがこの映画のひとつの見方。
ただもう一つの見方があって、それは50を過ぎても、ホームレスになってさえも、まだ「夢」にしがみつくマーク・レイの情熱と、その情熱故におきた奇跡だ。マーク・レイは「クソみたいな人生」のおかげで、映画の主役を務めることになり、この映画をキッカケに世界中のメディアにとりあげられた。
この後更にブレイクするかは謎ではあるけど、少なくとも人生の1ページとしては華々しいし、歴史にささやかながら名を残したことは間違いない。
そして何よりも、自分の人生をさらけ出すことで人々に自分の人生を考えるきっかけを作った。それはたいていの人がなしえないまま散っていくことだけに、なんて価値ある人生なのかと私は思った。
映画でのマーク・レイをみる限り、物腰も柔らかく人あたりもいいから、職を選ばなければ就職することはそう難しいことではないように思う。ただ何故そのように彼がしないか、というと、それは「家」を確保することだけが人生じゃないから、というに尽きる。
人生をどのように過ごしたいかは人それぞれだ。だから「夢」と「家」を両てんびんにかけて、時には「夢」をとってもいい。
この映画はそんなことを教えてくれる。
そしてそう思えるだけで、人生の可能性というのは、ずいぶんと広がってゆくのだ。

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